2003年度前期 IT教育基礎論特論B
第2回: 情報処理概論
■ 概要
教育のための仕組みとしての視点から情報システムを捉え、
情報伝送システム、情報ネットワークシステムの概要を知るとともに、
情報ネットワークシステムの構成要素であるコンピュータシステムの
アーキテクチャに関する学習を行う。
■ 目標
- 教育への適用の視点から情報ネットワークシステムのモデルの理解
- 基本的なコンピュータアーキテクチャの理解
■ 目次
情報処理技術(IT)の教育への応用を考えるためには、
教育とは何かを明らかにし、
これに対して情報処理技術がどのように関係するかを明らかにする必要がある。
以下、先ず教育とは何かを議論し、
その上で、教育を行うための仕組みと情報処理の仕組みとの対応を考える。
教育とは
- 先人や自分の持つ、何らかの知識や技術(に関する知識)等を
相手や後世に伝える。
- 知識や技術を学ぶことの必要性を伝える、もしくは興味、関心を持たせる。
* 本得論では、1を中心に教育を考えることとする。
「知識や技術」=「情報」:人の頭の中にある。
教育が、人の頭の中にある知識や技術としての情報を
相手に伝えることであるとすると、
教育とは、情報伝達の1つであると捉えることができる。
教育を行なうための仕組みと情報伝送系のモデル
教育を情報伝達の1つとして捉えた場合、教育を行うためには、
情報を伝えようとする者(情報源Aとする)が
伝達しようとする「知識」を言葉、文字、動作などの何らかの方法で表現し、
これを伝達する。
情報を得ようとする者(受信者Bとする)がこれを受け取ると、
これを解釈し、「知識 '(ダッシュ)」として得る。
この教育を行うための仕組みを図示すると、
以下のよう表すことができる。
図1: 教育を行うための仕組み
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このとき、Aのが伝えようとする「知識」は、
Aの持つ知識に基づく解釈により表現、伝達され、
また、Bの受け取った表現は、Bの持つ知識に基づく解釈により
「知識 '」として理解されるため、
必ずしも「知識」=「知識 '」とはならないことに注意。
この教育を行うための仕組みは、
伝達される言葉や文字、動作を符号とし、
Aによる解釈を符号化、Bによる解釈を復号化として捉えると、
図2に示す、一般に通信工学で用いられる
情報伝送系のモデルと対応付けて考えることができる。
図2: 情報伝送系のモデル
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情報ネットワークシステムのモデル
情報伝送系の場合、実時間で相手に情報を伝えることを想定しており、
実際の教育とは必ずしも一致しない。
実際の教育では、AもしくはBにおける符号の記録による時間的遅延がある場合があり、
また、「知識」と「知識 '」を一致させるためには、
双方向のコミュニケーションが必要となる。
この場合、A、Bはそれぞれ情報源、受信者の両方となり、
また符号化と復号化の両方の機能を実現する情報処理、
および符号の記録が必要となる。
これは、図3に示す、コンピュータとネットワークからなる、
情報ネットワークシステムのモデルと対応付けることができる。
図3: 情報ネットワークシステムのモデル
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本特論では、この観点からコンピュータやネットワーク等の学習を行う。
コンピュータネットワークの構成要素であるコンピュータシステムの仕組み
(コンピュータアーキテクチャ)を理解するためには、
これをハードウェアとソフトウェアの両側面から捉える必要がある。
以下に、ハードウェア、ソフトウェアそれぞれの側面から見た、
コンピュータアーキテクチャを示す。
ハードウェア
コンピュータのハードウェアとは、
コンピュータを構成する機械そのもののことである。
ハードウェアは、主に、以下のものからなる。
- 中央演算処理装置
- 一般にCPU(Central Processing Unit)と呼ばれ、
プログラムを実行し、各種演算やコンピュータシステム全体の制御を行う
- 主記憶装置
- 一般に(メイン)メモリと呼ばれ、主にDRAM等の揮発性メモリが使用される。
CPUで実行するプログラムや処理を行うためのデータを格納する。
- 補助記憶装置
- コンピュータシステムに電源が入っていない場合や、
メインメモリに入りきらない大量のプログラムやデータを格納するための装置。
ハードディスク、フロッピーディスク、CD、DVD、DATなどが利用される。
- 入出力装置
- 人やその他コンピュータの外界とのデータの入出力を行うための各種装置。
モニタやキーボード、マウス、スキャナ、プリンタなどがこれにあたる。
- ネットワークインタフェース
- コンピュータ同士を接続し、データの送受信を行うための入出力装置。
現在は、主にイーサネットのためのネットワークインタフェースが
利用されている。
これらのハードウェアの構成要素は、
図4に示すように、システムバスを介してCPU、メインメモリ、
I/Oコントローラが接続され、
また、その他の補助記憶装置や各種入出力装置、
ネットワークインタフェース等は、I/Oコントローラに接続される。
図4: ハードウェアの一般的な構成
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ただし、近年のハードウェアは、高速性などのために、
コンピュータの種類によって構成要素間の接続方法を工夫しており、
必ずしも図4のようになるとは限らない。
例えば、パーソナルコンピュータでは接続される入出力装置が多く、
I/Oコントローラとメインメモリの両方をシステムバスによりCPUに接続すると、
システムバス上を流れるデータ量が多くなってしまうため、
図5に示すように、この部分を分離するノースブリッジと呼ばれる
専用のコントローラを用意することが多く、
また、各種入出力装置の中でも、
モニタに画面を出力するための装置であるビデオカードは高速性を問われるため、
専用のバスにより接続されることが多い。
図5: PCのハードウェア構成
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さらに、現在では、ギガビットイーサ等の高速ネットワークに対応するために、
Pentium4用のチップセットとしてノースブリッジにネットワークインタフェースを
接続するIntel i875や、
高速なメモリアクセスを実現するために、
メインメモリをノースブリッジを介さずに直接接続するCPUである
AMD Opteronなどもある。
ソフトウェア
コンピュータシステムをソフトウェアの側面から見た場合、
一般に、その構成要素は以下のようになる。
- アプリケーションプログラム
- 一般の利用者が利用する、ワープロ、表計算、ドローツールなどの
各種ツールやゲームなどのソフトウェア。
- ミドルウェア
- アプリケーションプログラムの効率的な実行環境や
開発環境となるソフトウェア。広義の意味でのOSに含まれる。
主なミドルウェアには、以下のようなものがある。
- ウィンドウシステム
- グラフィカルユーザインタフェースによるファイル操作環境や、
各種アプリケーションのための操作環境を提供するためのシステム。
アプリケーション開発のためのAPIを提供し、
画面操作や、利用者からの入出力管理を行う。
- データベース管理システム
- 大量のデータを管理するためのシステム。
データの追加や削除、検索等の機能を提供する。
- プログラム実行環境
- アプリケーションの効率的な開発と実行のために、
共通な機能モジュールをライブラリとして提供する。
また、JAVA言語等、一部の高級言語を効率的に実行するための
インタプリタである、バーチャルマシンの機能を提供するものもある。
- オペレーティングシステム(OS)
- 狭義の意味でのOS。
基本ソフトウェアとも呼ばれ、
コンピュータを操作するための最も基本となる共通の機能を提供する。
一般的なOSの機能は以下のようになる。
- プロセス管理
- 実行中のプログラム(プロセス)の管理を行う。
とりわけ、複数のプログラムを並列に実行する場合に、
その実行順序のスケジューリングやプロセス間の同期、
プロセス間通信などの管理を行う
- 入出力管理
- 各種入出力装置の制御、
およびこれにより入出力されるデータの管理を行う。
複数のプロセスを並列に実行する場合には、
入出力装置に対するプロセス間での排他制御を行う。
- 主記憶管理
- メインメモリに対する、プログラムやデータの割り当ての管理を行う。
とりわけ、複数のプロセスを実行する場合の
プロセス間でのメモリの排他制御や、
メインメモリに入りきらない大きなプロセスを実行する場合に、
補助記憶装置上の仮想記憶領域とメインメモリ内のデータの
置き換え管理などを行う。
- ファイル管理
- 補助記憶装置上に置かれたデータやプログラムの管理を行う。
補助記憶装置は、そのままでは1列の長いデータ記憶領域でしかないため、
データやプログラムをファイルとして記録、管理し、利用するために、
記憶領域を分割し、ファイルの記録場所等を定義し、管理する。
- 基本ユーティリティ
- OSで提供される基本的な機能を利用者が実行するための
低レベルなコマンドの集合。
簡単なデータ処理やファイル操作などがある。
これらソフトウェアとハードウェアの関係を図示すると、
図6のように示すことができる。
図6: ソフトウェアとハードウェアの関係
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今週の課題はありません。
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橋本 洋志, 冨永 和人, 松永 俊雄, 小澤 智, 木村 幸男:
「図解コンピュータ概論」, オーム社,
ISBN4-274-13108-4, 2,500円
Last modified: Sun Jun 01 21:57:02 JST 2003