2003年度前期 IT教育基礎論特論B
第14回: ヒューマンインタフェースデザイン
■ 概要
ソフトウェアを利用するためのヒューマンインタフェースを設計、実装する際に
重要とされている項目を挙げ、その意味を理解するとともに、
その設計指針を学習する。
■ 目標
- ヒューマンインタフェースデザインの位置づけの理解
- 認知科学に基づくヒューマンインタフェースデザインの概要の理解
- ヒューマンインタフェースデザインの指針の理解
■ 目次
ヒューマンインタフェースもしくはユーザインタフェースとは、
コンピュータに限らず、車やコピー機など、様々な機械やシステムにおいて、
利用者との接点となるものであり、一般に、以下のような役割を担う。
- システムの操作環境の提供
-
システムを利用し、何らかのタスクを遂行しようとする利用者に対し、
システムの持つ機能を実行するための操作方法を明らかにし、
利用者の操作を促す。
- システムの操作内容の理解
-
システムを利用する利用者に対し、
どのような操作を行えばどのような機能を実行でき、
その結果どのようなことが効果が得られるのかを理解させる。
- システムの理解
-
システムが提供する各種機能だけでなく、
これらの機能を利用することによって、
このシステムによってどのような効果が得られるかを理解させる。
- システムの利便性、快適性の向上
-
システムが持つ本来の機能に加えて、
その機能を効果的に利用するための機能を提供し、
またそのシステムを利用することにより得られる快適性を提供し、
システムの付加価値を高める。
すなわち、単にシステムの操作のためのインタフェースを提供し、
これにより対応する機能を実行するだけでなく、
そのインタフェースを通じてシステムを利用することにより、
システムの利用方法や提供される機能の理解を促し、
またシステムの効果的な利用を促進するといった役割を有する。
アフォーダンス(affordance)とは、
どのようなことが出来るかを感じさせる状態を示す造語である。
例えば、椅子であれば、「座ることが出来る」といったアフォーダンスを提供し、
また、扉であれば「開けて中に入る(もしくは外に出られる)」といった
アフォーダンスを提供しているということが出来る。
もっと簡単なものでは、GUIにおいてボタンがあれば
そのボタンを「押すことが可能である」であることが判り、
またメニューがあれば「項目を選択することが出来る」ことを感じとることができる。
ヒューマンインタフェースにおいてアフォーダンスを提供できれば、
利用者の何らかの操作や動作を促し、目的の機能へ導くきっかけとすることができる。
すなわち、アフォーダンスはヒューマンインタフェースのデザインにおいて基本となる
最も重要な概念であるといえる。
しかしながらアフォーダンスは、性格や経験により人それぞれ異なることも多く、
正しいアフォーダンスを提供するためには、
利用者の立場に立って考えることが必要である。
人が何らかの項目を初めて見た場合に、これをすぐに識別できる個数は、
個人の能力の違いにもよるが、およそ7±2個であると言われている。
すなわち、7桁の数値(数列)を見せ、これを覚えることはできるが、
7桁以上の数値を覚えることはなかなかできず、
また、7個の異なる項目を提示され、1つを選択することは容易であるが、
それ以上の選択項目があると混乱してしまうと言われている。
ヒューマンインタフェースデザインにおいても、
このマジックナンバー7を考慮する必要がある。
例えば、初めて利用するようなシステムにおいて
選択可能な7つ以上の機能をいっぺんに提示してしまっては、
利用者は何をしたら良いかわからず、
使いづらいシステムであると感じてしまうことになる。
何らかの作業を繰り返し行うと、その作業内容を学習し、
以前よりも効率よく作業を遂行することが可能となる。
これを学習効果と呼ぶ。
ヒューマンインタフェースデザインにおいても、
この学習効果を考慮する必要がある。
初めて利用するヒューマンインタフェースでは、
マジックナンバー7のように、どのような機能が提供されていて、
どのように実行したらよいかをすぐに理解することは難しい。
しかしながらシステムを繰り返し利用するにつれて、
何をすべきかを直感的に判断することが可能となり、
複数の項目の中から次に目的の項目を即座に選択し、
実行することが出来るようになる。
逆に、もし、システムの利用に不慣れな利用者向けにデザインされた
ヒューマンインタフェースの場合、
利用を繰り返すうちに、そのインタフェースが煩わしく感じられるように
なることも多い。
ヒューマンインタフェースでは、
単にシステムの操作環境を提供するだけでなく、
操作した結果をフィードバックし、
システムを操作しているという感覚を利用者に伝えることも重要である。
何らかの道具や機械、システムを利用する場合、
操作した結果がわからないと、その操作が正しかったのか正しくなかったのか、
利用者は不安となる。
とりわけコンピュータシステムの場合、
システム上は必ずしもフィードバックが必要ではない場合も多々あり、
利用者は、自分が行った操作の結果、
現在どのような状態となっているかをつかむことができず、不安に陥ることが多い。
ヒューマンインタフェースをデザインする場合、
利用者がシステムを操作しているという感覚を得られるよう、
必要に応じて適切なフィードバックを明示的に行うことも必要となる。
第一接面とは、道具を利用しなんらか作業を行う際に、
直接、身体と道具が触れている面のことであり、
第二接面とは、道具と作業対象が触れている面のことである。
例えば、ペンを持って紙に図を描く場合、
手とペンが接している部分が第一接面であり、
またペン先と紙が接している部分が第二接面となる。
また、コンピュータシステム上でGUIを操作する場合、
手とマウスが接している部分が第一接面であり、
マウスカーソルとGUI画面とが接する部分が第二接面であるといえる。
何らかの道具を利用して作業を行う場合、
人は第二接面で起きた事象をその道具を介して第一接面で感じ取ることとなる。
第二接面から得られる反応が第一接面にうまく伝われば、
利用者はその道具に対する操作感を得、
道具を利用する助けとすることが出来るだけでなく、
第二接面を通じて捜査対象を感じ取ることが可能となり、
より効果的に道具を使いこなすことが出来るようになる。
ここで第二接面から得られる感覚を第一接面に1対1で伝達する必要はない。
例えば、自動車の運転におけるパワーステアリングでは、
必ずしとも第一接面(手とステアリング)と第二接面(タイヤと路面)に
1対1の関係があるわけではない。
しかしながら、第一接面と第二接面との関係に規則性がなく、
適切な操作感覚を得られない場合、
利用者はその道具を使いづらいと感じることとなる。
一般に、ヒューマンインタフェースデザインはTPOにより多様であり、
一概にこのようにすれば良いというものではないため、
ここでは、このような場合にどのようなデザインを行ったら良いか、
というような具体的なデザイン指針を述べるのではなく、
何に注意したら良いかを簡単にまとめるにとどめる。
ヒューマンインタフェースをデザインする場合に注意すべきことは、
「誰が(どのような利用者が)」、「何を目的に(何のために)」、
「いつ(どのような場面で)」、「どのように(一度きりないし繰り返し)」
利用するシステムのヒューマンインタフェースをデザインするのか、であると言える。
-
D.A. ノーマン著:
「誰のためのデザイン?」,新曜社認知科学選書,
ISBN4-7885-0362-X, ¥3,300-
-
田村 博 編:
「ヒューマンインタフェース」, オーム社,
ISBN4-274-07860-4, ¥5,500-
Last modified: Tue Jul 22 18:39:49 JST 2003